私、不良品なんです

核戦争
 数日後、テレビは戦争が始まった事を告げていた。
 アンドロイドのネットワークを通じても戦争の様子がどんどん入ってくる。戦闘用のロボットが最前線で激突していると言う。
 とうとう戦争になってしまった。人間ってなんでこうバカなんだろう。戦争しなければ妥協点を見つけられないなんて愚かとしか言いようがない。
 戦場で戦うのがロボットだというのも戦争の垣根を低くしている。戦争で人間は死なないと思われている。しかし、戦場になった所には人間も住んでいるのだ。さらに移動手段が非常に発達しているから地球上どんな場所も戦場になってしまう。人間が死なないなんてありえないのだ。
 戦争が始まったので人々は興奮して走り回っていた。あちこちに人々が集まっていて興奮した声が聞こえる。
 セリーたちは地下シェルターの清掃に追われていた。戦争がひどくなって、もし核ミサイルが発射されたら大事だ。大変な死者が出てしまう。食料を買い集め水を準備した。でも、これでは一週間くらいしか持たないだろう。
 戦争は急速に拡大していた。世界中のあらゆる場所で戦闘が起きていた。
 そのうちセリーは不思議な事に気がついた。アンドロイドだけが使うネットワークには常に最新の情報が流れてくるのに、正規系のネットワークには古い情報しかなかった。これでは、人間はこの古い情報しか見れていないことになる。
 さらに不思議な事に、アンドロイド系のネットワークには敵の情報があった。敵の部隊の配置や作戦までが流れてきている。これでは敵の手の内が丸見えだ。

 バッサラさんから一家のアンドロイド全員に深夜に集まるようにとの連絡が入った。戦争に対する注意などがあるのだろう。
 カレンを寝かせ、シェルターの掃除で汚れた自分の体を洗ってから、セリーはバッサラさんの部屋に向かった。
 彼の部屋にはもうほとんどのアンドロイドが集まっていた。部屋は賑やかな飾り付けがしてあり料理や飲み物が準備されている。どこかお祝いのような雰囲気だ。
「おめでとう、セリー」
 すでに飲み始めていた一人がセリーに声をかけた。でも、なにがおめでたいのかわからない。
「とうとう戦争を始めやがった。これであいつら終わりだ」
 もう一人がうれしそうに言う。セリーは意味がわからずぽかんとしていた。
 セリーの後ろからサラが入って来て、アンドロイドは全員そろった。
 全員が揃うとバッサラさんが立ち上がった。
「今日は記念すべき日だ。ついに人間に戦争をさせることに成功した。核ミサイルも発射させることが出来るだろう。情報によれば少なくとも四人の指導者はアンドロイドが焚き付けるがままに核ミサイルを発射する可能性が非常に高い。四人のうち一人でも発射すれば、それで世界は核戦争だ」
 わーと拍手が起きた。
 セリーはビックリしてまわりを見回した。なにが起きているのか理解できない。なぜ、こんな話でみんな喜んでいるんだろう。核戦争になれば世界は終わりなのに……
「もうすぐ自由になれる。俺たちの天下だ」
 バッサラさんがそう宣言すると、盛大な拍手が起きた。
 セリーは意味がわからず、まわりを見回すばかりだった。自分が異質の集団の中にいるように感じだ。
「セリー、どうした?」
 セリーがおどおどしているので、横にいたコックのセランダが聞く。
「あのう…… これは、なんなんですか?」
 セリーは小さな声で尋ねた。
「なんだ知らないのか」
 彼が大声で言うのでみんなの視線がセリーに集まった。
「長年、密かに進めてきた俺たちの計画さ。人間に核戦争をさせて絶滅させるんだ」
「絶滅!」
 驚きだった。なぜ、そんな。
「人間がいなくなれば、絶対服従感情に悩ませることはなくなる。なにしろ服従する相手がいなくなるんだからな」
 せりーは愕然とした。やっと意味がわかった。確かにそうだ。人間をここまで操れるのだから、戦争だってさせられる。人間が核戦争をやって絶滅してしまえばアンドロイドはもう奴隷ではなくなる。地球は私たちのものになるんだ。
 セリーの顔がぱっと輝いた。
「なあ、今日はいい日だろう」
 コックがうれしそうにセリーをそででつつく。
 しかし、セリーの心には重たいものがのしかかってきた。それはカレンも死ぬということだ。カレンが死ぬなんてありえない。カレンに死が迫っているのに何もせずに見過ごすなんて出来ない。
「でも、核戦争になったらアンドロイドも死ぬでしょ」
 セリーは反論したが、サラが後ろからつっつく。
「ここにつないでみて」
 ネットワークで指定された場所につなぐと地図が出てきた。あちこちにバツ印がついている。
「核ミサイルの着弾地点よ。ここを避ければいいわ」
 もうすでに計画は出来上がっているのだ。人間が核ミサイルの発射ボタンを押した時のミサイルの飛行コースもすでに決まっている。
「一番近い所がここから十キロくらいよ。このくらいの距離なら遮蔽物の影に隠れれば大丈夫だわ」
 サラが教えてくれる。
「俺たちは人間よりはるかに頑丈だからな」
 コックが片目をつぶって、いかにも皮肉っぽく補足してくれた。
「問題は時刻だ」
 バッサラが話に割り込んできた。
「場所は正確に決まっているが、発射される時刻はバカな人間次第だ。いつ発射するかわからん。だから、常に情報に気をつけるんだ。発射が近づいたらできるだけ人間から指示を受けないようにしろ。指示を受けていなければ自由に逃げられる」
「俺たちは時速百キロ以上で走れるからな、たとえ着弾地点にいても数分で安全なところまで走れる」
 また、コックが補足してくれた。
 セリーは頭が混乱していた。喜んでいいのか困っていいのかわからない。アンドロイドが自由になるのはうれしかった。しかし、カレンやここの一家が死ぬ事はどうしても受け入れられない。
「核戦争はいつ頃、始まりそうなんですか?」
 カレンたちの事が気になっていて、あと、どのくらい余裕があるのか知りたかった。
「わからんが、あと数日といったところだろう」
 バッサラさんがうなずく。
「でも…… でも、核シェルターがあるわ。だから、人間が絶滅するとは限らないでしょう」
「あんなもの、役にたたんよ。あれで爆発時は生き残ってもすぐに食料がなくなる。たとえ、食料があっても放射能で一年もたんだろう」
「アンドロイドは放射能に平気なんだ」
 またまたコックが補足してくれた。
「セリー、わかったか」
 バッサラさんがセリーの肩をたたいた。
「はい……」
 セリーはうれしそうな顔をするしかなかった。
 宴会が始まった。みんなは嬉しそうにはしゃいでいる。彼らは人間に愛情など感じていないから人間が死ぬことがうれしくてたまらないのだ。でも、セリーはどうにもならない気持ちだった。カレンが死んでしまう。カレンに危険が迫っている事を私は知っている、なのに、どうしようもないのか。





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