私、不良品なんです

兄弟喧嘩
 食事の後は兄弟で遊び始めた。
 必然的に、兄セロイドの担当のサラと一緒に兄弟の横に待機していた。
 カレンはわがまま放題で、セロイドがずいぶんと我慢している。
 セロイドは必ず自分のおもちゃで遊んでいて絶対にカレンのおもちゃに手を出さない。しかし、カレンは誰のおもちゃでも使っていなければ自由に使っていた。そして、セロイドが使うつもりで横に置いていたおもちゃをカレンが使い始めた。おもちゃをカレンに取られた事に気がついたセロイドがそのおもちゃを取り返した。自分が遊んでいたのにおもちゃを取られたカレンがまた取り返す。たちまち、取っ組み合いの喧嘩が始まった。
 サラと二人で兄弟を引き離した。
「サラ、取り返えせ!!」
 セロイドが、自分のアンドロイドにおもちゃを取り返すように命令した。カレンは取っ組み合いの最中も絶対におもちゃを離さなかったのだ。
 サラは何の躊躇もなく、カレンの手から無理やりおもちゃを取り上げると、それをセロイドに渡した。
「セリー、取り返して!!」
 今度はカレンがセリーに命令する。
 アンドロイドがいると子供の喧嘩もややこしくなる。セリーは迷った。どうすればいいんだろう。子供とは言え人間の命令には従わなければならない、そして二人の人間が矛盾する命令を出している。
「セリー、カレンの方が悪いわ」
 ネットワークからサラの声が聞こえてきた。
 サラはカレンが一方的に悪いと決めつけているようだった。確かにカレンはセロイドのおもちゃで遊んでいたがセロイドが使っていなかったおもちゃだ。私たちはセロイドの様子を見ていたからセロイドが使うつもりだったことがわかるが、カレンにそれがわかるわけがない。
「でも、カレンだって……」
 セリーはそう言いかけたが、
「アンドロイドの意見が割れてはだめよ」
 サラが厳しい声でセリーの言葉を遮った。
「アンドロイドは常に意思統一して人間に接するの、アンドロイド同士で意見が割れてはだめ。カレンが悪いことは明らかだわ」
「でも、カレンが一方的に悪いわけじゃないわ」
 セリーは反論しようとしたがサラが厳しい目でセリーを睨む。
「あなた、ここであたしたちが子供達の代理喧嘩をやるつもり?」
 そう言われると返す言葉がない、このままいくと、子供たちの喧嘩をアンドロイドが引き継いで喧嘩をする事になる。そんなバカなことはできない。
「いい、アンドロイドの意思は一つなの、アンドロイドはネットワークでつながった一つの意思なの、わかった」
 サラはさとすようにセリーに説明する。サラはアンドロイド歴十年の大ベテランだ。逆らえない、カレンに取り返せと命令されたがじっと立っているしかなかった。
「まあ、どうしたの?」
 カレンが泣きじゃくり始めたので奥様がやってきた。
「カレンがセロイドのおもちゃを取ったんです」
 サラが説明する。
「取ってない!」
 泣きながらカレンが主張するが、日頃の行いが悪いカレンを奥様は信じない。
「人のおもちゃを取ってはダメよ」
 声はやさしいがカレンにとっては屈辱的だった。

 カレンを連れて彼女の部屋に戻ってきた。
 まだ、カレンは泣きじゃくっていた。カレンのアンドロイド不信はこんな所から来ているのかもしれない。サラはセロイドのアンドロイドだから当然セロイドの味方をしたくなる。本来ならカレンのアンドロイドである自分が頑張らなければならなっかたのだ。サラにうまく言いくるめられたように感じてしまう、ふがいなかった。今度はアンドロイドの意見が割れてもカレンの味方をしよう。
「ごめんなさい」
 セリーは素直に謝った。
「あなたはセロイドがあのおもちゃを使うつもりだった事を知らなかったのだから、あなただけが悪いわけじゃないわ。でも、その事を言えなかったの、ごめんなさい」
 カレンが泣くのをやめてセリーを見上げた。
 セリーはカレンに微笑みかけた。
「もし、腹が立つならあたしを殴っていいわよ」
 こう言えば、気持ちが通じて殴らないかと思ったが、カレンはぼかぼか殴り始めた。殴ったり蹴ったりする。セリーはじっと耐えていた。

 カレンをお風呂に入れて、寝間着に着替えさせて、やっと布団に寝かせた。大変な仕事だった。
 布団に入ったカレンをギュッと抱きしめた。
「お休み」
 カレンの額にキスをしてあげた。
 カレンは機嫌の悪い顔をして、むくれている。
「いい夢をみてね」
 ふくれているカレンの顔もかわいい。カレンもじっとセリーの顔をみている。
「セリー、逃げないでね」
 不意にカレンがしおらしい事を言う。
「あなたが逃げると、アンドロイドがいなくなちゃう」
 カレンはさっき夕食の席で言われた事を気にしてるのだ。
「逃げないわよ」
 セリーはカレンに微笑みかけが、それでも心配そうにセリーを見ている。
「約束する。逃げないわ」
 セリーはカレンを抱きしめてあげた。
 やっと安心したのかカレンは目をつぶった。
 カレンが眠るまで横にいてあげた。さしものカレンも眠るとかわいい顔をしていた。





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