私、不良品なんです

売られる

 客が二人の方に歩いてきた。両親と二人の子供だ。男の子は両親から少し離れて勝手な事をしていて、女の子は母親の手をしっかりと握っている。お供のアンドロイドと思えるピチッとした身なりの紳士が夫婦の後ろを歩いていた。
 女の子がセリーの前まで来るとセリーを指差した。
「あたし、これがいい」
 急な展開にびっくりしてしまう。
 女の子の言葉に父親らしい男は立ち止まった。
「君、名前は?」
 男が聞く。
 セリーは立ち上がった。
「セリーです。224型のアンドロイドです」
「224型はいい、定評があるからね。欠陥なんて聞いたことがない」
「はい……」
 セリーはお世辞笑いをした。すごい欠陥があるのだが……
「これにして!」
 女の子がもう一度念を押した。ずいぶんとわがままな子のようだ。
「わかった。じゃあこれにしようね」
 父親は女の子にずいぶんと甘い。
「今度は大事にするのよ」
 母親が女の子に注意する。しかし、気になる一言だった。『今度は』って、じゃあ大事にされなかったアンドロイドが今までにいたと言う事か……
「じゃあ、君を買う事にするから、これカード」
「はい……」
 セリーはあまりの急な展開に頭が真っ白になってしまった。今、工場から着いたばっかりなのに、それに、カードを差し出されても、このカードをどうしろと言うのだ。
 セリーがぼうぜんとして立っていると
「あなた、販売処理の仕方を知らないの?」
 ラポンテが声をかけてくれた。
「販売処理?」
 何の教育も受けてないのに、そんなのが分かっていなければならないのだろうか?
「すみません、この子、今、工場から着いた所なんです。だから、まだ何もできなくて……」
 ラポンテがフォローしてくれる。
「ほら、店のネットワークに接続するのよ。そしてサーバーに繋いで販売処理をするの」
「ネットワーク?」
 ビックリである。ネットワークにつなぐって何のことだ。
 ともかく記録からネットワーク関係の説明書を読み出してみた。なるほど、アンドロイドは頭の中にネットワークにつなぐ機能を持っているのだ。ネットワークにつないでいろんな処理ができる。さらに、販売処理の説明書も見つけた。
 セリーはカードを受け取るとカードの内容を読み出してみた。なんと、簡単に読み出す事ができた。ネットワークにも簡単につながる。おもしろくなってきた。自分自身の販売登録をし、カードの会員番号の口座から代金を引き落として、自分の販売処理が完了した。
 うまく出来たかなと思ってラポンテを見た。
「やるじゃない。あなた、すごく頭の回転が早いのね」
 ラポンテが褒めてくれる。
「まあね」
 セリーはうれしくて拳を握って見せた。
「ほら、カードを返さなきゃ」
 ラポンテが注意してくれる。
 あわてて、カードを両手で持って、男の人に差し出した。

 セリーが販売処理をしたので、その情報はすぐに店員のアンドロイドに伝わり店員がやってきた。
「お買い上げ、ありがとうございます」
 店員は頭を下げる。
「いや、なかなか良さそうなアンドロイドが見つかってよかったよ」
 男がにこやかな顔で話す、店員も満面の笑みでそれに答えていた。
 しかし、セリーはちっと不満だった。販売処理は店員の仕事ではないのか、販売される商品である自分がなんで販売処理をしなければならないのだ。
 小声でラポンテに不満をささやいてみた。
「ばかね、人間はアンドロイドの仕事の担当なんか無視して身近にいるアンドロイドに命令するの。だから命令されたアンドロイドがその仕事をしなきゃならないの。そのくらいわかっていなさい!」
 ラポンテからきびしく叱られた。
「私は、ハラモン・ランだ。よろしくね」
 男は優しそうな笑顔でセリーに自己紹介をした。
「旦那様、わたし、懸命にお仕えします」
 セリーも精一杯の笑顔で答えた。これから、この家庭で働くことになるのだ。この人が私の持ち主、どんな生活になるかはこの人しだいだなのだ。
「この子はカレンだ。君はこの子の世話を頼む」
 旦那様は女の子の頭をなぜる。カレンは七才くらいの勝気な女の子だった。
「私はモリー。あの子がセロルドよ」
 母親が遠くで遊んでいる男の子を指差した。
「奥様、私、いい家庭に買われてよかったと思っています」
 セリーは誠意をみせようと一番の愛想笑いで答えた。最初の印象がなにより大事だ。
「そうでもないかもよ」
 奥様がニコッと笑うので、ちょっとドキッとしてしまう。さっきの『大事にするのよ』が気になった。前任のアンドロイドはどうなったんだろう。
「では、行こうか」
 旦那様がセリーの肩に手をかけた。
 押されて歩き始めながら、セリーはラポンテを振り向いた。自分の方が先に売れてしまって申し訳なかった。
「頑張ってね」
 ラポンテが応援してくれる。
「先に売れてごめんね」
「なに言ってるの…… 頑張ってね」
 ラポンテが手を振っている。
「あなたもね」
 ラポンテは生まれて始めての友達だった。でも、もう会うこともないだろう。
 セリーは新しいご主人様に連れられて店をでた。




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