ラポンテ
廊下を進んで行くと、大勢のアンドロイドが並んで順番を待っている所に着いた。列の先にはいくつもの大きな箱が置いてあって、みんなその中に入って行く。ある程度の人数が箱に入ると箱の扉が閉まり、そして、その箱はすーっと浮き上がった。
『トラック』という言葉が頭に浮かんだ。あれはトラックなのだ、荷物を運ぶための空を飛ぶ乗り物だ。彼女の頭の中には必要な知識はすでにインプットされていて、今その知識からあれがトラックだとわかったのだ。
トラックはある程度上昇するとすごい早さで飛び去って行く。出来上がったアンドロイドをどこかに運んでいるらしい。
誰かが列の先頭にいてアンドロイドをどのトラックに乗るか振り分けている。セリーの順番がくると一番はしのトラックに乗るように指示された。
トラックの荷台は椅子も窓もなく、床に十台くらいのアンドロイドがばらばらに座っていた。アンドロイドは品物だという事を痛感させられてしまう。これからこんな生活に耐えなければならないのかと思うと憂鬱になる、たぶん奴隷以下の生活だろう。
セリーも端の方に座ったが、みんな暗い顔をしている。これからの生活が不安なのだ。人間のために働く生活ってどんな生活だろう。
あと、数人のアンドロイドがトラックに乗ると扉が閉まり中は真っ暗になった。トラックの荷台には照明すらなかった。しかし、アンドロイドの視力は非常にいいらしく暗闇の中でも何とか見ることができた。トラックは動き出したが、どこに向かっているのかまったく分からない。しかし、元いた場所からの距離や方角は手にとるようにわかる。アンドロイドの頭には高性能の加速度センサーが着いているのだ。
することがないので、セリーは言われた通りアンドロイド規則を読み出してみた。
アンドロイドは大量の知識が最初から人工知能に記録されていて、その知識を瞬時に読み出すことができる。知識のエリアを探すとすぐにアンドロイド規則が見つかり、それを頭の中に読み出してみた。
アンドロイド規則の一番は人間の命令に絶対服従することだった。それから、人間に危害を加えない、人間に逆らわない、人間に反抗しない、などなど、延々と似たような事が書かれていた。
これからはこの規則を守って人間に尽くさなければならないのだ。かなり厳しい規則で守るのは大変そうだった。しかも、もし、この規則を破ったらどんな処罰を受けるのか書いてなかった。どうやら、通常ならアンドロイドは人間の命令に絶対服従の感情があるのでこの規則は破れないのだ。しかし、セリーにはその感情がないので、この規則は意識して守らなければならない。もし、この規則を破ったら、その時はセリーにはその感情がない事がわかってしまい殺される事になるだろうから、つまり、この規則を破ったら殺されるということだ。
トラックはどこかに着いて全員トラックから降ろされた。どうやらそこはアンドロイドを販売するお店らしい。
そこで、新しい服を渡された。その服に着替えたが、かわいい女の子らしい服だった。
値札をもらって首から下げたが値札には二十万ダルと書いてあった。二十万ダル! どのくらいの価値なのかピンと来ないが、私は二十万ダルで売られるのだ。どこか言いようのない屈辱感を感じたがそれをぐっと抑えた。
売り場に出された。
明るい綺麗なところで椅子やソファーが置いてあり、アンドロイドが三々五々集まっておしゃべりをしている。お客らしい人が数組そんなアンドロイドの間をゆっくりと歩いてアンドロイドの品定めをやっていた。
アンドロイドはみんな笑顔だ。ここではさっきのトラックの中のように膨れっ面をしていてはいけないのだ。お客様に好印象を与えないといけない。
「こんにちは」
セリーは、とりあえず一人のアンドロイドの前に立った
「いま来たの?」
彼女はうれしそうにセリーを見上げる。
「あたしセリー、さっき製造されたばっかりよ」
「あたしはラポンテ、ここに十日いるわ。なかなか売れなくて」
同じ244型と言っても、容姿や性格はかなり違って作られている。それが客の好みに合わないと売れ残ることになる。
セリーはラポンテの横にすわった。
「やさしい人に買ってもらえるといいね」
どんな人に買われるのだろうと思うとドキドキだった。怖い人だったらビクビクの生活が始まるかもしれない。
「ひどい命令は適当にやっとけばいいのよ」
ラポンテは事もなげに言う。
「そんな事できないでしょ」
「ここにいるといろんな情報が集まるの、みんな結構いい加減にやっているらしいわ」
ラポンテはおもしろそうに説明してくれる。
「でも、サボったら怒られるでしょ」
「怒られて何が困るの。あたしたちは殴られても苦痛とは感じない。体の一部が破損したと認識するだけよ。修理すれば完全に元に戻るわ」
ラポンテの説明は驚きだった。そんな考え方もあるのだ。それなら人間をあまり恐れなくてもいいのかもしれない。それでも不安があった。
「でも、スイッチを切られちゃったら大変よ」
「アンドロイド保護法を知らないの? 一度、知識から読み出して頭に入れておいた方がいいわね。アンドロイドは人間と同じような感情があるからアンドロイドへの虐待は禁止されているの、もちろんアンドロイドのスイッチを切る事は殺すことと同じだから禁止されているわ。だからそんな心配は必要ないの」
ラポンテが教えてくれる。
セリーもラポンテの説明を聞きながら自分でもアンドロイド保護法を頭の中に読み出してみた。ラポンテの説明と同じような事が書いてあったがラポンテの説明にない但し書きがあった。人間に危害を加える恐れがあるアンドロイドは例外となっているのだ。当然セリーはこの例外だ。セリーにはこの保護法は無意味なのだ。
「ね、わかった」
ラポンテはセリーがこれで安心しただろうと思ってわざと大げさに念をおした。
「だから、命令をサボってもたいしてひどいことはされないわ」
「そうね」
セリーはわざと明るく答えた。
セリーはサボったりして、もし欠陥があることがバレたら殺されるのだ。絶対にサボれない、一生懸命働くしかなかった。