短篇集

宇 宙 戦 争 ( 短篇 )
 宇宙戦艦を買った、全長1200mの本格的戦艦だ。なんでそんなものが買えるんだって? 今は26世紀21世紀とは違うのだ、でも26世紀でも結構高い買い物だった。宇宙戦艦を買うと次は戦争がしてみたくなる、第26星系でマニアが宇宙戦争をやっているので その戦争に参戦してみる。第26星系は人類がまだ入植していない未開の地域なのだ。
 宇宙戦争に参戦するにはそれなりの手続きがいる、まずどちらの側につくかだ。1組軍と3組軍とが戦っている、なにかクラスマッチみたいな戦争だ。問題は強い方へつくか弱い方へつくかだ。1組軍の方が圧倒的に強いらしい、強いので次々と同盟者が参加しますます強くなる。しかし、強い方へつくのはどうも気分が悪い、だから3組軍に参加することにした。ちょうど巨人ファンとアンチ巨人ファンみたいのものだ、巨人ファンは巨人が強いから巨人が好きになり、アンチ巨人ファンは巨人が強いから巨人が嫌いになるのだ。
 宇宙戦争への参加は簡単なものだ、宇宙メールで申し込めばいい、宇宙戦艦もコンピュータ制御だから自宅から指示できる、自宅にいながらにして宇宙戦争に参戦できるのだ。
3組軍への同盟を宇宙メールで申し込む、すぐに同盟受け付けの宇宙メールが返ってきた、作戦会議への参加のパスワードも付いている。早速 宇宙インターネットで作戦会議に参加する、しかし戦況は最悪らしい、投入する宇宙戦艦は次々と破壊され逃げ隠れするので精いっぱいらしい。作戦会議は逃げ隠れする方法で盛り上がっている、なんか悲惨な作戦会議だ。
 ともかく私の宇宙戦艦を味方の部隊と合流させることになった。宇宙戦艦に指示を送り第26星系に向かわせる、裏の空き地に停めてあった宇宙戦艦はゆっくりと浮き上がりぐんぐん速度をあげ空のかなたへ消え去った、宇宙戦艦が空き地に停めてあっても近所の人はとくに驚かない、なんせ今は26世紀21世紀とはちがうのだ。
 次の日、私はすぐに通信装置の前に座った、わたしの宇宙戦艦を操縦するためだ、もう宇宙戦艦は第26星系に到着していた、さっそく味方との合流地点に向かわせる。
 ところで、宇宙戦艦のコンピューターはなまいきなやつだった。合流地点へ向かうよう指示すると、
「敵にあとをつけられては大変です、まず索敵してみたはいかがでしょう」などと言う。
これはまずい、自分のほうが技術的に上だと思っているコンピューターは大変あつかいにくい。
「かってにやれば」と、とりあえずコンピューターのいうことを受け入れる。
宇宙戦艦からの映像は立体テレビで送られてくる、まるで実際に宇宙戦艦に乗っているようだ。
付近を索敵してみると、うじゃうじゃと敵の戦艦が集まりはじめている、見つかっているのだ。
コンピュータがにんまりしている。
「逃げましょう」とコンピューター
「よし」と私は答えた。
宇宙戦艦はエンジンを全開にした、立体テレビからはエンジンを全開にして疾走する宇宙戦艦の船体が見える。しかし、敵は数が多すぎる、逃げ切れないかもしれない、ちょうど近くに恒星系があった。
アイデアがひらめいた、コンピュータを見返すチャンスだ。
「止めろ、おとりを発射しろ」
「えっ」
コンピュータがびっくりしている。
「おとりを発射しておいて、あの恒星系にまぎれこむんだ」
おとりとはレーダーに宇宙戦艦と同じように写る小型のロケットのことだ。
コンピューターはすばやく指示に従った。
おとりのロケットが発射され、宇宙戦艦はエンジンを停止し、戦艦内のエネルギーを放射するすべての機器を停止した、敵がおとりを追いかけてくれれば助かるのだが。
コンピュータがちょっと驚いている、こんな作戦は人間でなければできない。
息詰まるような時間が過ぎる、敵はそろそろミサイルを発射するころだ、はたしてどちらに向かって発射したのか?こちらへか おとりへか、やがて、おとりを飛ばせた方向で無数の閃光が光る、ミサイルの核爆発だ、うまくいったようだ。
宇宙戦艦は惰性で恒星系へ近づいていく、青い星が見える、きれいな星だ。海があり雲があるようだ。
突然、センサーがなにか捕らえた、敵の宇宙戦艦だ、恒星系の近くをゆっくりと飛んでいる、まだこちらに気がついていない、今攻撃すれば確実に撃破できる。私は敵の宇宙戦艦を攻撃したい誘惑に駆られた、今攻撃すればせっかく隠れたのが水の泡になる、しかしせっかく宇宙戦艦を買ったのだ、敵をやっつけなければ。
「ミサイル発射」
小さな声で指示する。
突然 青白い炎を吹き出しながらミサイルが20発ほど船体から飛び出した、敵艦へ向かって飛んでいく。
ミサイルが無数の星ぼしに吸い込まれるように見えなくなった、と、花火のような閃光が光った、命中か、センサーを見ると命中と表示されている。
やったー、これがやってみたかったんだ。
「逃げましょう、敵が戻ってきます」とコンピュータ
「よし逃げるぞ」と言うと同時にセンサーが敵ミサイルを捕らえた、大量に向かってくる。
「無理です、避けられません」コンピュータなのに声が上ずっている。
私に、またまたアイデアが閃いた。
「あの星の陰に入れ、あの星を盾にするんだ」
あの青い星の陰に入ればいい、そうすればミサイルは敵と私の船との間にある星にぶつかってしまう。
「盾に、でもそれじゃあの星がやられます」とコンピュータ。
「かまわん、はやく行け」
宇宙戦艦がぐーと向きを変えた、全開にしたエンジンが眩いばかりの炎を吹き出す。
青い星がぐんぐん迫ってくる
「ミサイル接近」とコンピュータ。
「急げ」
宇宙戦艦は青い星に落ち込むように突っ込んでいく。
青い星が視界全体に広がった、と、星の夜の部分にたくさんの小さな小さな明かりが見えた、宝石をばらまいたような、無数の明かりが密集してあちらこちらにある、町の明かりか?
星の向こう側が急に明るくなった、ミサイルがこの星の反対側に大量に命中したのだ。星の丸い地平線全体から大きな炎が吹き上げ、星全体が真っ赤になった。
「通り過ぎます」コンピュータが叫んだ。
猛スピードで星に向かったので、その速度で星の裏側を通過してしまうのだ、通過してしまったらミサイルを遮蔽するものがなくなってしまう。
青い星が目の前を通り過ぎていく、星の向こう側から回り込んできた核ミサイルが地平線付近に大量に落下し一面が核爆発に包まれた。
その中から星のふちをかすめて接近する1発のミサイルをセンサーが捕らえた。
「命中します」コンピュータが観念したようにいう。
突然画像が途切れた。
「あっ」
私は小さくつぶやいた。
しばらく立体映像を見ていたが、真っ暗なままだ。
「くそっ、やられた」
私は、しばらく放心したように座ったままだった。あの戦艦、高かったのに、たった1日でやられてしまった。
しかし、くよくよしても仕方ない、またお金をためて新しいのを買おう。
ところであの星の明かりは何だったんだろう。




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