独裁者の姫君

父とルシール
 署名式が終わって、メレッサは控え室に戻ってきた。セラブ提督やコリンスも一緒だ。
「ミネーラの事をもっと詳しく教えて下さい」
 自分の事なのに、なぜ私だけ知らないのか、腹が立つ。
「ミネーラ王家は20くらいの星を従えた小さな王家です。皇帝の攻撃を受け王族は母君を除いて全員死んだと聞いております」
 そんなひどい事があったのか。
「その事は誰でも知っていることなんですか?」
 あの会場の中で私だけが知らなかったなんて、ひどい話しだ。
「たぶん、みんな知っていると思います。ただ、微妙な話ですので、姫君の方から話題にしない限り、この話を姫君にする者はいないと思います」
 それで、私はこの話にまったく気がつかなかったんだ。
「ただ、庶民の間では、メレッサ姫が宮殿の中で力を増すにつれてミネーラ王家再興の可能性が出てきたと期待されています」
 ふと、ミラバ艦長が言った事を思い出した。彼はこの話をしていたのだ。
「ミネーラが再興される可能性はあるんですか?」
 メレッサには疑問に思えた。20年も前に滅んだのに。
「もし、姫君が帝国を引き継がれたとしたら、姫君のお心次第となります」
 心臓がドキンとなった。そうなんだ。その時は私が決められるんだ。もし、ミネーラを再興したら母が喜ぶだろうなと思うとうれしかった。母の悲願だったにちがいない。
 『悲願』で父が言った言葉を思い出した。
 そうか、指揮権の継承の話をした時に父が言っていたのは、この事だ。まさか私がミネーラの事を知らないとは思っていなかったんだ。では、父の話ではミネーラはすぐにでも再興されるのかもしれない。しかも、そこが私の王国になる。
 母の国ミネーラ。ミネーラってどんな国だったんだろう。
「ミネーラ王国って、そんなにいい国だったんですか?」
 メレッサが聞くとセラブ提督はちょっと考えている。
「昔の事で私もよくは知らんのですが、普通の王国だっただろうと思います。ただ、今の生活の辛さが期待となっているのでしょうな」
 貧しい暮らしを知っていて、かつ王家の血を引いている、それが私の人気の秘密だったのだと、やっと理解できた。
 ミネーラを滅ぼしてそこの王女を略奪し、その王女に子供まで産ませたのに、その子供に帝国を乗っ取られる。人々はそれを喝采しているのだ。


 父が意識を取り戻したと連絡があった。メレッサは急いでルシールの宇宙船に向かった。
 ルシールと一緒に病室に入った。
 父は電線やらチューブにつながれてベットに寝ていた。
「ご気分はいかがですか?」
 メレッサはベットの横にすわった。
「メレッサよくやった。お前ならやれると思っていた」
 父に褒めてもらうのはうれしかった。もう、だれかが戦争の事を父に報告しているらしい。
「すぐに、待ち伏せに動いたのは、いい判断だった。この勝利はお前の勝利だ」
 父は手を伸ばしてメレッサの頬をさわる。メレッサはその手を握った。父に喜んでもらえてうれしかった。
 ふと、ルシールの事が気になった。誰かが彼女の貢献を父に話しているのだろうか。
「父さんはルシール姉さんが救ったんですよ。姉さんは敵に大群の中に飛び込んで行ったんです」
「ルシールが?」
 父は驚いたようにルシールを見た。
 やっぱり、誰も父に伝えていなかったんだ。
「どうせ、逃げるのを部下に反対されて、逃げられなかっただけだろう」
 父は吐き捨てるように言う。
 メレッサは息をのんだ。なんという事を。
「違います! 姉さんは助けに行けと命令したんです」
 これは、ひどすぎる。命を助けてもらったのに、この言い方はあんまりだ。
「姉さんの艦隊は大損害を出しています。それでもお父さんの所へ助けに行ったんです」
「逃げなかった事はなんの自慢にもならん。もし逃げてたら許さん」
 父独特の言い方が始まった。厳しい言い方しか出来ない人なのだ。
「父さんは命を助けてもらったんですよ。姉さんに誤って下さい」
 メレッサは興奮してきた、絶対に許せなかった。
「なにを生意気な!!」
 父も興奮してきた。
「やめなさいよ、父さん大怪我してるんでから、興奮させちゃいけないよ」
 ルシールがメレッサを止める。
「でも、姉さん」
 ルシールは平気な顔をしている、彼女はあんな事を言われて何とも思わないのだろうか。
「昔からこんなんだから、別に気にしてないよ」
 ルシールと父との付き合いはメレッサよりはるかに長いのだ。メレッサが心配してることの方がルシールには迷惑なのかもしれない。
 父は体に巻きつくチューブを邪魔そうに動かしている。メレッサはチューブを整理して邪魔にならないようにしてあげた。
「ミラルス王は殺したか?」
 父が聞く。その問題があったのだ。
「いえ、今、監禁してあります」
 今、父と議論するのはまずい、また父が興奮すると怪我によくない。
「殺せ、お前の手で首をはねろ」
 父は極端な事を言い出す。父はこの方針でずっとやってきたから、父にとっては当然のことなのだろう。
「少し、考えさせて下さい」
 この問題は、父が元気になってから議論すればいいと思った。
「お前もそのくらい、出きるようにならなければいかん」
 父はさとすように言う。でも、とても無理に思えた。この手に剣を持って人の首を切り落とすなど絶対にできそうにない。
 ふと、父はルシールを見た。
「お前なら、出来るな」
 ルシールに聞く。
「はい」
 ルシールは低い声で答えた。メレッサはビックリしてルシールを見上げた。
 まさか、ルシールは本当にそんなことが出来るのか。
「じゃあ、メレッサにやり方を教えてやれ。ただ、殺すのはメレッサにやらせるんだぞ」
「わかりました」
 ルシールは特に困った様子もない。本当に引き受けるつもりなのか。
 メレッサが驚いてルシールを見つめていると。
「何を驚いているのさ、やってみれば意外と簡単だって」
 ルシールと最初に会った時に、使用人を殺せと言われた事を思い出した。付き合ってみればいい人達なので忘れていたが、ここの兄弟はそのような事ができるように育てられているのだ。
 病室の扉が開いて、医者や看護師が入ってきた。包帯を交換すると言う。
 メレッサは立ち上がった。
「じゃあ、また来ます」
 ルシールも手を上げた。
「ルシール」
 二人が病室を出ようとすると、後ろから父の声がした。
 二人が振り向くと、
「ありがとう」
 父が言った。ルシールはちょっとうれしそうだった。




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