独裁者の姫君

兄弟達
 メレッサは混乱していた。継承順位が一番というのは内心はうれしいのだが、兄弟の事を考えると憂鬱だった。ジョルは父の前ではあんな事を言ったが内心は嫌だったはずだ。
 考えながら自分の飛行艇の所へ向かっていると、コリンスとセラブ提督が待っていた。
「姫君、おめでとうございます」
 セラブ提督がうれしそうにお祝いの言葉を述べた。
「ぜんぜん、おめでたくありません」
 あの、やさしいジョルとの間でさえ亀裂が出来そうなのだ、どこもめでたくなんかない。
「ほお、これは意外ですな。ナンバー2になったのですぞ」
 セラブ提督はメレッサが不機嫌なのが理解できないらしい。
「姫君、辞退を申し出てはいかがです?」
 コリンスは心配そうだ。彼はメレッサの気持ちがわかってくれているらしい。
「もう辞退したけど、だめだった」
「辞退ですと!」
 セラブ提督は驚いている。
「何ゆえに辞退などと。このままいけば、お世継ぎの可能性すらありますぞ」
「セラブ提督。姫君はご兄弟との関係を心配されているのです。姫君にとっては権力よりご兄弟の仲の方が重要なのです」
 コリンスが説明してくれる、コリンスはここまで私の気持ちをわかってくれるのだ。
「しかし姫君。兄弟は他人の始まりとも申しますぞ。このようなチャンスを見逃す手はありますまい……」
「提督!」
 コリンスが提督の話を遮ってくれた。提督の話はもう聞きたくなかったのでコリンスが止めてくれて助かった。
「で、結局、引き受けたのですか?」
 コリンスが聞ので、メレッサは力なく頷いた
「できるだけ早く、ジョル君を訪問される事をおすすめします」
 言われなくても行くつもりだった。ジョルに説明しなければならない。
「ルシール姫との関係はいかがですか?」
 コリンスは心配してくれる。
 ルシールは別れ際にスケートに誘うくらいだから怒ってはいないのだろう。でも、スケートを口実に呼び寄せて言いたい事があるのかもしれない。
「ちょうど遊びに行く約束をしています。ジョルの後にルシールの所に行ってきます」
「それがいいと思います」
 しかし、それには困った問題があった。
「あの、コリンス。今日の作戦の話をちゃんと覚えている?」
 不意に不思議な事を聞かれてコリンスは立ち止まった。
「もちろんですが?」
「じゃあ、概要をまとめて私に提出して、今日中よ」
 コリンスはメレッサを睨んでいる。
「皇帝に何か言われましたね」
 コリンスは勘が鋭い。なぜわかるのだろう。
「何の話?」
 首を振って、とぼけてみた。
「姫君、ルシール姫とおしゃべりしていたでしょう。それを皇帝に怒られましたね」
 もうだめだ、全部見透かされている。コリンスって、ものすごく頭がいいんだ。
「お願い、私はジョルとルシールの所に行かなきゃならないの」
 ちょうどいい口実になった、概要をコリンスに書かせればいい。
 コリンスは考えている。
「わかりました。しかし、あす、ご自分で概要を書いてください。いいですね」
 私も書くべきだと言うのか、コリンスは最近は部下じゃなくて先生みたいになってきた。
「わかりました」
 メレッサは先生に答えるように素直に答えた。

 自分の宇宙船に戻ると、その足でジョルの宇宙船に向かった。
 ジョルは機嫌よく迎えてくれた。彼の部屋は驚くほど質素で、壁には艦隊の動きが分かるようにいろんな端末が綺麗に配置されていた。立体スクリーンには今も艦隊の動きが表示されている。遊ぶことしか考えていないメレッサの部屋とまるでちがった。
「わざわざ、どうしたの、継承順位の事?」
 ジョルはごく普通に接してくれる、でも内心は穏やかではないだろう。
「兄さん、ごめんなさい。やっぱり辞退できなかった」
「気にするなよ、俺は何とも思っていない」
 ジョルはあくまでも優くしてくれる。
「これは、絶対に間違っているよ。兄さんの方が優秀だもん」
 メレッサは部屋の端末類を見た。こんなに頑張っているのに。
 ジョルもメレッサにつられて端末を見た。
「これ、すごいだろう。1万光年先まで探知できるんだ」
 彼は自慢げに言おうとしたが、どこか言葉が宙に浮いた感じだった。
「兄さん、すごいよ、私にはこんなの全然わからない」
 メレッサも話を兄に合わせたが、やっぱり、しっくりいかない。
 ジョルは機器をさわっていた手をきゅうと握った。
「こんなの、何の役にもたたないよ。必要なのは人の心をつかむ能力さ」
 始めてジョルが悲しそうな顔をみせた。やっぱり、私に追い越されたのが悔しいのだ。
「兄さん、父さんにもう一度話してみる。絶対に兄さんが先だと思う」
 メレッサはそう言ったがジョルは首を振った。
「君の方が優秀だよ。君はすごい人気じゃないか。君は自分の人気を知っているの?」
 ミダカに行った時になんとなく分かった。それもおかしいと思うのだが、実力以上に人気が先行している。
「それに、ルニーがいるしね。君のお母さんが影で動いてると思うよ」
 それは心が痛かった、母が私が知らない所で父に要求している、その影響がかなりあることは認めざるを得なかった。それに母にそれほどの影響力が父にあるのにも驚きだった。
「世の中、いろんな資質がいるのさ。残念ながら俺はそれを持っていない」
 彼はメレッサを見た。
「でも、君は持っている。それだけのことさ」
 言い方は穏やかだが、やっぱり私の事を悔しく思っているってことだ。特に母親の力の差が悔しいらしい。
「わたし、どうすればいい、兄さんの言う通りにする」
「だから、気にするなと言ったろ。本当に俺は何とも思っていない」
 ジョルがやさしくしてくれるほど、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「そうだ、作戦の概要を説明してやろうか、父さんにレポート出さなきゃならないんだろう」
 ジョルは作戦の内容を説明してくれた。
 しかも、すべてジョルが文書にまとめてくれた。
「これを父さんに出せばいい」
 最後にレポートをメモリーに入れて渡してくれる。
「ありがとう」
 なんとお礼を言っていいか分からない。私のようなバカがジョル兄さんより上だなんて間違ってると思った。

 次はルシールの所へ行った。
 ルシールは気さくな性格なので、うじうじと根に持つようなことはしない。何にも怒ってなくて、本当にスケートをして遊んだ。
 スケート靴を履いて氷の上に立つと、まったく動けない。ルシールに引っ張ってもらいながら練習したが最後まで手すりから手を離せなかった。
「ねえ、そろそろ帰らなくちゃ、レポート書かなきゃならないでしょ」
 メレッサがそう言うと、ルシールが大声でわらった。
「バカね、出さなくても大丈夫よ」
「出さなかったら、また、怒られるよ」
「父さんは忙しいから、そんな暇ないって」
 ルシールらしい、彼女は大物だ。それに、彼女は全軍を指揮する可能性はないのだから作戦を知らなくてもいいかもしれない。
「あたしは出す。だから帰るね」
「そうね、あんた真面目だもんね」
 ふと、ジョルからもらったレポートを思い出した。
「これ、あげる。ジョル兄さんが書いてくれたの」
 私は徹夜してでも自分で書こう、それが兄弟に対する責任だ。
 ルシールにメモリーを渡した。
「あんたは、どうするの?」
「あたしは自分で書く。それを見ていたからすぐ書けるわ」
 ルシールはメモリーを握ってニヤッと笑った。
「わかった、これ、もらっとく」

 その日はコリンスに来てもらって、徹夜でレポートを書いた





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