独裁者の姫君

おとり作戦
 同じ政策をメレッサの所領の残りの2つの星にも適用した。すべての作業を終え、メレッサは宇宙船でセダイヤワへ帰りの途についた。

 ミダカからセダイヤワまで5日かかる。宇宙船は帝国と対立関係にあるミラルス王国との境界付近を飛んでいた。

 スミダ艦長が深刻な顔でメレッサの部屋にやってきた。
「姫君、本艦は国籍不明の宇宙船に追われています。恐らくミラルスの戦艦です」
 メレッサはまだ事の重大さがわかっていなかった。
「1時間ほど前から追われているのですが、敵の方が速度が早く追いつかれています」
 艦長の声に緊張があるのがわかった。何か困った事なのか。
「大丈夫なんでしょ?」
「どんな事があっても姫君をお守りします」
 艦長は真剣な顔で言う。メレッサはやっと事の重大さがわかってきた、私をお守りしなきゃならないような事態になっているのか。
「追いつかれたら、どうなるの?」
 艦長はちょっと下を向いた。
「撃ち合いになります…… いえ、絶対に大丈夫です」
 テレビで宇宙戦艦同士の撃ち合いを見たことがあったが、弾が当たって戦艦が爆発するシーンがあった。
「護衛艦がいるでしょう」
 この船には護衛の戦艦が2隻ついていた。
「こちらは3隻ですが、敵は5隻です」
 メレッサは驚いてしまった、3対5では負けてしまう。コリンス、そうコリンスに状況を聞いてみよう。
「コリンス!!」
 メレッサは彼の部屋に向かおうとした。
「コリンス少佐はブリッジにいます」
「ブリッジ?」
 コリンスは私より先に話を聞いていたのだろう。
「私もブリッジへ行きます」
 メレッサは走り出した。艦長が後からついてくる。
 ブリッジに駆け込むと、中央付近にコリンスが立っていたが、彼の顔は見たことがないくらい緊張していた。
「コリンス、どうなの?」
「かなり危険な状況です」
 彼はレーダーから目を離さない。
「どうするの?」
「ここから3時間くらいの所に、ダダイヤがあります。そこは帝国の植民地星ですから、そこまで行ければ大丈夫です」
「行けそうなの?」
「あと1時間くらいで追いつかれます」
 コリンスは冷たく言う。それでは、ダダイヤに着く前に追いつかれてしまうではないか。
「撃ち合いになったら、どうなるの?」
「たぶん、負けます」
 頭をぶん殴られたように感じた。そこまでハッキリ言うとは。
 足ががくがく震えてきた。死ぬかもしれない。
「私が乗っているから、狙われているの?」
「その可能性が高いです」
 コリンスはレーダーをじっと見つめたままだ。
 艦長がメレッサの所にやってきた。
「護衛艦2隻を後退させて敵と戦わせます。その間に本艦は逃げきります」
 でも、それでは護衛艦2隻で敵5隻と戦うことになる。
「それで、逃げきれるの?」
 艦長は言葉につまった。
「やってみるしかありません」
 2対5では戦いにならないのだ。無理とわかっているのに、無理な作戦をやろうとしている。こんな作戦が一番最悪だ。
 メレッサはふとアイデアを思いついた。
「逆にやったらいいわ。おとりの船を逃すの。2隻が向かってきて1隻が逃げれば、敵は逃げた1隻に私が乗っていると思うわ。だからその裏をかいて、おとりの船が逃げて、この船は敵に向かうの。敵は逃げてる船を追いかけるから。この船は大破して止まったふりをしたらそのまま行ってしまうかもしれない」
「まさか、姫君がご乗艦の船で戦闘をやるわけにはいきません」
 艦長はびっくりしている。
「いいかもしれない」
 コリンスは驚いたようにメレッサを見ている。
「姫君、いいアイデアです。危険ですがやってみますか」
「バカな。姫君がご乗艦の船で戦闘をやるなんて」
 艦長は納得しない。
「追いつかれたら、どうせ戦闘になるんでしょ」
 私が乗っていると思ったら敵は目的を達成するまで攻撃を止めないだろう。同じ戦闘になるなら助かる可能性のある方がいい。

 メレッサはテレビ電話で作戦を護衛艦の艦長に説明した。
「どちらがおとりになりますか?」
 護衛艦の一人の艦長が聞く、メレッサにはおとりも戦闘も、どちらも危険性は同じ様に思えた。
「では、あなたやってください」
 メレッサは簡単に命令した。
「了解です。メレッサ姫、ご期待に応えてみせます」
 彼はわずかに微笑んでメレッサに敬礼した。彼の目に浮かんだ覚悟にメレッサはまったく気がつかなかった。

「では、姫君は、避難をお願いします」
 スミダ艦長が言う。船の中央には分厚いジリュムで作られた部屋があった。そこなら、どんな攻撃を受けても大丈夫だ。しかし、そこに入ると状況がわからなくなる。
「ここにいます」
「ここは危険です」
 艦長が避難を勧める。ここが危険って、みんなここにいるんじゃないか。
「大丈夫です」
 メレッサは動かなかった。
 メレッサがブリッジにいるという事は彼女は指揮を取る事を意味していたが、彼女はまったくその事に気がついていなかった。





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