独裁者の姫君

領地の視察
 宇宙船はミダカに到着し高度を落としていた。
 メレッサは自分の領地を自分の目で見にやってきたのだ。領地を持つなら自分の目で領地を見ておいた方がいいと母の助言に従ったためだった。
 メレッサは母と窓の横に座って下を見下ろしていた。ミダカは緑の綺麗な星で広大な農園が広がっているのが見える。
 宇宙船が高度を落とすにつれて都会の上空に入ってきた。人々の家が見えるが道路は狭くごみごみした感じだ。
 ミダカの総督府が見えてきた。しかし、総督府の前にものすごい群集が集まっている、デモだろうか。ルビルの経験から考えて支配者である私は嫌われているはずだから、私を非難するデモかもしれない。
 宇宙船は群集の上を通過して総督府に向かって行く。メレッサは窓から下の群集を見ていた。あちこちに横断幕が広げてある、何と書いてあるか読みたかったが小さすぎて読めなかった。
 やがて、宇宙船は総督府の庭に着陸した。
 宇宙船の下に開いた通路にメレッサは母と一緒にいた。通路の先には総督府の建物まで赤い絨毯が敷いてあって、通路の先には何人かの男が整列してメレッサを待っていた。
 通路を降りると先頭の男が頭を下げた。
「私、ミダカの総督をしておりますデニルと申します。今日はミダカへお出でいただき光栄の限りでございます」
 彼はいかにも管理者といった感じの背の高い人だった。
「大義です」
 メレッサもこのような場面にはずいぶんと慣れた。できるだけ笑顔で答えた。
 メレッサが先頭に立って赤い絨毯の上を歩いて行く。両側に衛兵が外向きに並んで立っていた。すぐ目の前に総督府の建物があって、その建物の向こう側がさっきの群集が集まっていた広場になっていたが、その広場からの群集の声がここまで響いて来る。
 メレッサは総督府の最上階の大きな部屋に案内された。窓の向こうには広場が見えている。
「姫君、長旅お疲れ様でした」
 デニルは気を遣ってくれる。
「あの群集はデモですか?」
 群集は数万人くらいいる、私はよほど嫌われているのだろう。
「とんでもありません、メレッサ姫の歓迎のために集まった人々です」
 デニルは満面の笑顔で説明する。
 歓迎? ありえないことだ。たぶんお金で集めたのだろう。ミダカの統治がうまくいっていることを見せるためにこれだけの人を集めたのだ。
「姫君、バルコニーに出て、人々に応えてはいただけませんか?」
 デニルがバルコニーの方に誘う。
 いくら金で集まったとはいえ、群集に応えなければならないだろう。メレッサは立ち上がった。
 バルコニーの正面は防弾ガラスになっているが両脇が開いていて、そこから群集の声が聞こえている。メレッサがバルコニーに出ると群集の声が一段と大きくなった。みんな手を振っている、横断幕には『歓迎、メレッサ姫』と書かれていて、人々はそれを振っている。
 お金で集まったにしてはものすごい熱気だ。メレッサもお金をもらって大統領の式典に行ったことがあるが、もっとしらけた感じだった。
「お手を振ってはいただけないでしょうか?」
 デニルが丁寧に頼む。
「ああ」
 メレッサは手を振った。ものすごい声が巻き起こった。みんな手を振っているし飛び上がっている人もいる。メレッサが手を振ったのでそれを喜んでいるとしか思えなかった。
「メレッサ姫の人気はものすごいですね」
 デニルが嬉しそうに言う。
 私に人気があるはずがない、嫌われて当然なのに。
 10分ほどバルコニーで手を振っていて、部屋に戻ってきた。確かに群集の熱気は本物だが、なぜ自分に人気があるのか理解できない。
「コリンス、あれはお金で無理に集めたんだと思う?」
 デニルがいるのも構わずにコリンスに聞いてみた。
「いえ、そのような事はないと思います」
 コリンスはメレッサの質問に返って不思議そうにしている。
「でも、私に人気があるはずないでしょ」
「いえ、姫君の人気は大変なものです」
 信じられない、コリンスまでそう言う。
「でも、なぜ?」
「姫君が、最近まで貧しい暮らしをしていらっしゃたからです。だから庶民の気持ちがわかると思われています。また、ルビルの占領で、皇帝にさからって犠牲者を少なく抑えた事も人気の一つです。姫君は今、帝国内でものすごい人気です」
 メレッサは唖然としてしまった。ぜんぜん知らなかった。
「でも、ルビルじゃ、ボロクソに言われたわ」
「そんな事はありません、ルビルでも姫君に感謝している人は多いはずです」
 じゃあ、フォラストやトモが例外だったのか。
 メレッサは立ち上がって、窓から広場を眺めた。群集はまだ広場から動こうとしない。この人たちは本気で私を歓迎してくれているのだ。私に期待している。メレッサはこの期待に絶対に応えなきゃと思った。

 デニルはミダカの現状について細かい報告をしていた。お姫様になると、この様な報告を聞かなければならない事がよくあったが、このような話は内容が難しくてよく分からない。
「ミダカでは税金を毎月300億ナル納めております」
 ふと、デニルの言葉が頭に引っかかった。
「税金?」
 デニルはメレッサが興味を示したので嬉しそうだ。
「そうです。ミダカでは毎月300億ナルのお金を姫君に納めております」
 デニルは自慢げに言う。
「えっ、あたしが税金をもらっているの?」
 メレッサは驚いてしまった。
「姫君はミダカの領主になられましたので、ミダカの領民は姫君に税金を払っております」
 メレッサが税金の事を分かっていないと思ったのだろう、デニルは説明してくれた。
 そう、人々はいろんな税金を払わなければならない。特に領主への税金は高額だった。
 ルビルにいたころ、帝国の支配になると領主に納める税金がとてつもなく高くなると聞いたことがあった。
「税金が高すぎるのではありませんか?」
 メレッサは聞いてみた。
「いえ、姫君。これは姫君に納められる税金です。高い方がよろしくありませんか」
 デニルはメレッサが何か勘違いをしていると思ったらしい。税金が高すぎて人々の生活が苦しくなる事を心配したのだが。
 デニルは次に反政府勢力の説明を始めた。この星にはゲリラがたくさんいて人々を苦しめており、政府軍がゲリラを制圧すべく戦っているがゲリラの制圧はなかなか難しいとの説明だった。
「ゲリラがいるのは、人々の生活が苦しいからではありませんか?」
 メレッサは聞いたが、デニルは首を傾げている。
「豪華な生活ではありませんが、普通の生活だと思いますよ」
 メレッサがルビルにいた時にも知人に反政府勢力の活動家がいた。そのような人がいるのは生活が苦しいからだった。ゲリラがいるなら極貧の生活をしている人がいるはずだ。
「ねえ、税金って高いんじゃないかと思うんだけど」
 今度は母に聞いてみた。
「帝国の領主への税金はとんでもない額よ。あのままルビルにいたら、今頃は生活できないわ」
「でしょ、それがゲリラの原因になっているんじゃないかな」
「あり得ると思います」
 コリンスが頷いている。
「税金を下げましょう。コリンス、税金をどのくらい下げられるか調べてください」
 デニルがビックリしている。
「姫君は、ご自分の手元に届く税金を減らせとおっしゃっておられるのですか?」
「そうです。それに、それ以外の税金も減らしましょう。デニル、どうすれば税金を減らせるか調べてください」
 デニルはポカンとしている。
「いえ、姫君がそれでかまわないとおっしゃるのなら、私も税金が少ない方が徴収が楽です。生活できないと泣き叫ぶ者から税金を取り上げるのは大変です」
 ついうっかりデニルは本音を漏らした。やはり苦しい生活をしている人がいるのだ。
 ふと、メレッサは窓の外を見た。あれから一時間くらいたつのにまだ大勢の人がじっと立っている。私がここにいるから、みんな帰らないで私に何かを訴えている。それほどに生活が苦しいのだ。私には生活が苦しいという意味がわかる。帝国の中で彼らを救えるのは私しかいない。






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