独裁者の姫君

ルビル占領
 一ヶ月がたった。
 窓からはルビル星が見えていた。ルビルは降伏し、その占領にやってきたのだ。
 メレッサが乗っている宇宙船は宮殿をそのまま宇宙船にしたような船だった。宇宙船の中央が庭園になっていて、その周囲に豪華な部屋がたくさんあった。
 この船の艦長はミラバという老人だった。非常におっとりした人で、いつ船の事をやっているんだろうと思うくらいメレッサの近くに待機していて、船のことで分からない事があるとすぐ艦長が来て説明してくれた。
 今日は、ルビルに到着するのでメレッサはブリッジにいた。
 前面に大きな窓があり、そこから青く輝くルビルが見えている。ブリッジの中央には立派な椅子があり、メレッサはそこに座っていた。最近ではこのような所に座るのも慣れてきたが、軍艦のブリッジの椅子は座り心地が悪かった。
 ミラバ艦長がすぐ横に立っていて補佐してくれる。コリンスはミラバ艦長に遠慮して少し離れた所に立っていた。
 ルビルはぐんぐん大きくなり、すぐに前面の窓いっぱいに広がるようになった。ルビルの表面に白い雲が渦巻いているのが見える。やがて、前方の空間に白く輝く点がたくさん散らばっているのが見え始めた。宇宙艦隊がルビルの軌道上に集結しているのだ。宇宙船は徐々に減速しながら艦隊に接近していく。
「姫君、これだけの船を指揮する気持ちはいかがですか?」
 艦長が感慨深げに聞く。
「いえ、べつにどうってことは……」
「わたしは、この航海で引退するつもりです。わたしも、若いころは提督になる夢を持っていましたが、結局艦長止まりでした」
 艦長はのんびりした目でメレッサをみる。
「姫君は、生まれた時から、提督より上ですから……」
 艦長はメレッサが羨ましいのだろう。でも、メレッサはこれだけの船を指揮できても特に嬉しくなかった。
「あたしも、つい一ヶ月前までは、この星で貧しい暮らしをしてました」
「存じてます。姫君なのに大変でしたなあ」
「いえ、そんな生活をいやだと思ったことはありません」
 宇宙船が艦隊に近づくにつれて一隻一隻の船がはっきり見えてきた。その中にひときわ大きな船がある。
「あれが、ミルビスです。セラブ提督の船です」
 ミラバ艦長が説明してくれる。メレッサはミルビスとは船の名前だろうと思ったが質問する訳にはいかなかった。まさか彼女が自分の指揮下にある船の名前を、しかも、旗艦の船の名前を知らないなどとは誰も思っていなかった。コリンスならもっと上手に説明してくれると思ったのだが、彼は離れた所にいる。
「本艦が到着したので、本艦が旗艦になります。提督がこちらに乗艦されます」
 ミラバ艦長が説明してくれる。メレッサはそれが何なのか分からなかったので黙ってると。
「姫君が本艦にご乗艦なので、本艦が旗艦になります」
 ミラバ艦長が説明してくれた。
 私が乗っているからこの船が旗艦になるのだ。メレッサにもやっとわかった。
 無数の宇宙戦艦が浮かんでいて、メレッサの乗っている船はその中に滑るように入っていく。
 不意に、浮かんでいたすべての船から、宇宙の方に向かってまばゆいばかりの光の筋が無数に伸びた。
 メレッサはビックリして、小さな悲鳴を上げてしまった。あわてて口を抑えて、周囲を見たが、みんな平然としている。
「メレッサ姫の到着を歓迎する儀礼砲です。皇帝の場合は7発、姫君の場合は6発、発射されます」
「儀礼砲!」
 映画で儀礼砲を撃つシーンを見たことがあったが、私のために儀礼砲を撃ってくれるのか。
 儀礼砲が次々と発射された。これだけ戦艦があると儀礼砲の光は花火のようで本当に綺麗だ。
 メレッサの船は巨大戦艦ミルビスの横に停泊した
「ミルビスより旗艦の引き継ぎ依頼がきています」
 離れた所で誰かが叫んだ。
 ミラバ艦長がメレッサを見た。
「姫君、旗艦の引き継ぎ、よろしいですね?」
 なんの事か分からない。だれか説明して欲しいがコリンスは近くにいない。
「はい」
 分からない時は承諾するしかなかった。
「旗艦の引き継ぎの承諾を伝えろ」
 ミラバ艦長がさっきの男に向かって叫ぶ。
「姫君、ただいまより、本艦が旗艦です」
「ああ、そうですか……」
 力ない返事をしていると、たまりかねたのかコリンスが横にやってきて耳元に口を寄せ、小さな声で説明してくれた。
「軍隊では、誰が指揮権を持っているかを常にはっきりさせます。でないと、緊急時に二人の人間から命令が出ると混乱するからです。今、旗艦の引き継ぎが終わりましたので、今は姫君がこの艦隊すべての指揮権を持っています。もし、緊急事態が起きたとき、例えば、ルビル軍の攻撃を受けた時は、姫君の命令で全艦隊が動くことになります」
 ビックリである。
「そんなの無理よ」
 メレッサは驚いて、すがる思いでコリンスを見上げた。
「大丈夫です。すぐにセラブ提督がこの船に移ってこられますから、実務はセラブ提督がされます」
 ミルビスから、小型艇が近づいて来るのが見えた。セラブ提督がこの船にやってくるのだ。

 艦長やコリンスなど主だった者がエアーロックの所でセラブ提督を出迎えた。
 セラブ提督が乗船してきたが直接みるとでっかい人だ。太っているが元々がっしりした身体なのでそれを感じさせない。
「これは、これは、姫君。これはお美しい。直接拝見すると、輝くばかりの美しさですな」
 提督はまゆを細めている。こんな事を言われると、おもわず微笑んでしまう。
「どうです。ほとんど無傷でルビルを占領しましたぞ。ルビル側の死者は数万人程度です。姫君のご希望どおりです」
 提督はどこかユーモラスだ、顔はニコニコしている。
「よくやってくれました」
 すこし、お姫様らしく言ってみた。
「そのように言っていただけると、光栄のきわみです。疲れが一度に吹っ飛びます」
「おだてすぎです」
 つい笑ってしまう。
「今回の占領作戦はわがドラール軍の占領方法の転機となるでしょう、これも、姫君のご英断のたまものです」
 セラブ提督の口からはいくらでもお世辞が出てきそうだった。
「いえ、私は何もやっていません」
「それに、父上を説得された話も聞きましたぞ。あの皇帝相手に一歩も引かず、どちらが皇帝かわからなかったとか。これで、お世継ぎはメレッサ姫に決まりだと、もっぱらの噂ですぞ」
「それはね」
 メレッサは父を説得した件は多少自慢だった、我ながらうまくやったと思っていた。でも、世継ぎの話はセラブ提督の完全なお世辞だろう。





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