独裁者の姫君

父との面会
 父からの呼び出しを待っていた。お昼になり夕方近くになったが呼び出しはなかった。長年会っていない娘が戻ってきてもそれほど関心がないらしい。ひょっとしたら今日は会えないかもしれない。
 やきもきしていたら、ミルシーが駆け込んで来た。
「お父上からお呼び出しです」
 やっとだ。やっぱりうれしかった。
 宮殿の中を移動するための飛行車に乗って、皇帝の宮殿に向かった。正面に巨大な建物が見えてきた。飛行車でそのまま入って行くが、ものすごく巨大な建物だ。
 飛行車を降り、真っ赤な絨毯が敷いてある通路を進んでいく。大きな部屋に入ると彼女を待っていた人がいて、その人に案内されてさらに奥へ入っていく。いったいどこにいるのかわからなくなったころ、やっと最後の部屋の前に着いた。
 ここで父が待っているという。
 メレッサは深呼吸をした。いよいよ、夢にまでみた父に会うのだ。どんな人でもいい。どんなに冷たくされてもいい。会えればそれでいい。メレッサは覚悟を決めた。
 母と二人で部屋に入った。
 正面に大きな机があって、男がその机の前に座っていた。
 がっしりした身体つきで背が高く精悍な顔をしていた。彼はじっとメレッサを見つめているが、その目は意外に穏やかだった。
「メレッサ?」
 静かな声だった。
 メレッサは男の方に進んだ。この人がおとうさん。
 長年夢に見てきた瞬間が今なのだ。
「お前が、メレッサか?」
 父はメレッサをじっと見ている。
 メレッサに再会できて喜んでくれているのだろうか。
「はい」
 『おとうさん』と言いたかったが、その言葉は口から出てこなかった。
 父はそういう感傷的な事を受け入れてくれそうには見えなかった。
「ずいぶん探した。どこにもいなくて、もう死んだと思っていた。見つかってよかった」
 意外だった、父が自分を探していたのか。もっとにこやかな顔をしたかったが、父の態度はどこか近寄りがたい所があった。
「どんな生活をしていたんだ?」
 問い詰めるような感じの質問だった。今まで、何か悪いことでもしていたのではないかといった感じだった。
「母が住み込みでメイドをしていて、その家に住んでいました」
「そうか」
 父の顔が急に曇った、なにか気に障ることでも言っただろうか。
 父は母を見た。
「なぜ逃げた?」
 急に怖い声で聞く。
「すみません」
 母は小さな声で答えた。謝るしか方法がない。きのうの母の話を思い出した。できるだけ穏便に済むといいのだが。
「俺に逆らって、ただで済むと思っているのか」
「すみません。もう決して逃げません」
 母は必死で謝っている。怒らせたら殺されるかもしれない。
 父は椅子から荒々しく立ち上がった。
「俺の娘にメイドのまねなんかさせやがって、今度逃げたら殺すぞ」
「はい」
 母は小さくなっている。でも、よかった。今回は殺さないということだ。
 父はイラついて机にペンを放り投げた。
「もういい、いけ」
 母は頭を下げると出て行こうとする。母について行くつもりで、メレッサも慌てて頭を下げた。
「お前は残ってろ」
 父に怒鳴られた。怖かった。一人で父の所に取り残されてしまう。
 母は部屋をでていった。メレッサは恐怖におののく目で父を見ていた。
「怖がらなくていい」
 と怖い声で言う。
「ここにいれば何不自由のない生活ができたものを」
 父はそうだろうと言うようにメレッサを見た。おもわずうなづいてしまう。
「メレッサ、今までの生活は忘れろ。お前は俺の娘だ。そのつもりでいろ」
「はい」
 意味がよく分からなかったが、はいと答えるしかなかった。
「お姫様だ、お前にできないことは何一つない。わかったな」
「はい」
 やっぱり意味がわからない。
 父は少し落ち着いてきたようだった。
「今夜、子供たちと食事をする。お前の歓迎会だ。いいな」
「はい」
 今日、兄弟と会えるのらしい。会ってみたかった。メレッサは幼いときから母と二人で暮らしていたから兄弟に憧れていた。それが兄弟が7人もいるのだ。どんな人たちなんだろう。
 父はいらいらした様で椅子に座った。
「わかったら、もう行け。俺は忙しいんだ」
 父はメレッサと会えてもそれほどうれしくないみたいだった。すぐにメレッサから興味を失い仕事を始めた。
 メレッサは頭を下げるとすぐに部屋を出た。父に会えてうれしいというより、やっと父から開放されたといった感じだった。
 父が何をいらついているのか分からなかったが、普段から機嫌の悪い人らしい。そんな風だと人が寄り付かなくなるから本人が一番不幸なのだが。






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