宇宙船
宇宙船の中で次の日を迎えた。
窓からは無数の星が見えていた。宇宙船は光速の1億倍のスピードで飛んでいるので、星が流れているように見える。宇宙船は過去に向かって進むことによって相対論に矛盾せずに光速を越えることができる。
メレッサは宇宙船に乗ったのは始めてだった。タラントさん一家は年に一回は宇宙旅行に出かけていたがメレッサ親子が旅行に行けるはずはなかった。こんどの宇宙船の旅は超豪華個室での宇宙旅行と同じなので、メレッサははしゃいでいた。
ミル艦長が宇宙船の中を案内してくれた。メレッサの後を何人もの侍女と士官がついてくる。操縦室に案内してくれた。真っ暗な広大な部屋で上と前面が透明になっていて、星々が正面から向かってくるように流れていく。
メレッサが行くと何人かの士官がやって来て彼女に敬礼をした。
「姫君、ここが操縦室です」
ここで一番偉いらしい士官が説明してくれる。一般の人は通常は操縦室などに入れないが姫君はすべて特別扱いらしい。
「正面に見えている星の集団がプレアデス星団です。セダイヤワ星はその中にあります」
彼は説明してくれたが、どれがプレアデス星団かわからない、ともかく、わかったふりをしてうなずいた。
「ルビル星はどこなんですか?」
何か質問しないとまずい雰囲気なので、聞いてみた。
彼はちょっと困っている。
「ルビルは後方なので、操縦室からは見えないのですが、ちょっとお待ち下さい」
彼は操舵手になにやら指示している。操舵手がハンドルを動かすと、窓の外の星が流れる方向が変わり始めた。
「今、宇宙船を180度回転させていますので、すぐに、真後ろが見えるようになります」
宇宙船がぐるっと回って、正面の一点に向かって星が流れて行くようになった。宇宙船は後ろ向きに飛んでいるような形になっている。
彼は窓の外を指差しながら。
「あの中心付近にルビル星があります。残念ながら、かなりの距離なのでルビルは見えません」
「そうですか」
メレッサが何か言うと、とんでもなく大変な事をやってくれる。恐縮するばかりだった。
彼は計器盤を見せてくれた。
「本艦は今、光速の1億倍の速度で飛行中です。過去に向かっては時の流れる早さの99.99%で時間を遡っています」
彼はさも当然と言うように難しい説明をする。メレッサは学校でこんな話を習ったことがあったがまったくわからなかった。
操縦室のすぐ後ろにはブリーフィングルームがあった。案内されて入ると30人くらいの人が座ってしていたが、メレッサを見ると全員が一斉に立ち上がった。
全員がメレッサを見ている。どうしたらいいか分からなくて戸惑ってしまう。
「姫君、いきなりで申し訳ありませんが、ここにこの艦の主だった士官を集めております。姫君に拝謁できるような機会はまず一生ないと思われる者ばかりです。ぜひお言葉をかけていただけないでしょうか?」
ビックリである。この私に『拝謁する』、この私が「お言葉をかける』、など、とんでもない話だ。姫君として祭り上げられているが私はそんなに偉くない。それに、父から冷たくあしらわれたら後が怖い。
「あの、私はメイドだったんです。そんなに偉くありません」
小さな声でミル艦長に言った。
「謙遜なさらないで下さい。皇帝のお子様なのですから、通常でしたら私などこうやってお顔を拝見することすら出来ないようなお方です。ぜひ、一言お願いします」
ミル艦長が後ろに下がったので、メレッサは正面に一人で立つことになってしまった。
「あの、いえ、私はそんなんじゃありません」
全員が自分を見ているので、何か言わない訳にはいかない様になってきた。
母を見た。母も何か話せと言うように笑ってうなづいている。ひとごとだと思って……。
すこしもじもじしていたが、思い切って口を開いた。
「あの、みなさん。頑張って下さい」
なんとか言ったが、意味不明の言葉になってしまった。全員が敬礼で返礼をした。
「姫君、ありがとうございます」
ミル艦長はうれしいそうに頭を下げた。
メレッサはやっと部屋の外に逃れることができた。自分がそんなにすごい人間だなんてとても信じられない。姫君として祭り上げられると、その反動が心配になってくる。こんなことがいつまでも続くとは思えなかった。